問題点
stackはいいんだけれど
私はHaskellを使ったプロジェクトのビルドにはstackをよく使います。
stack
を使う恩恵としてビルドが安定するのはもちろんあるのですが、
それ以外にもcabal
を使っていた頃と比べて煩瑣なコマンドの入力が減っているので
ターミナル上の操作も随分楽になりました。(主にcabal configure
が邪魔だと思っていた)
Haskellの依存パッケージをビルドするのにこのstack
を使うことで快適になりました。
しかしそれでもまだ時々ストレスになることがあります。
Cの呼び出しを含むようなパッケージをビルドする場合の依存関係の解決です。
FFIを含むパッケージの依存関係
例えばhdbc-sqlite3はsqlite3
のヘッダファイルを
インポートするようなC呼び出しのコードを含んでいます。
stack
ではこのsqlite3
のヘッダファイルの解決まではしてくれません。
自分でsqlite3
をシステムにインストールするなどしてロードできるようにしてあげる必要があります。
開発環境のシステムにグローバルにインストールすることでこの依存を解決できるかもしれません。 ただし新しいインストールよってシステム上の他の依存関係が壊れることもあります。 開発目的で必要なライブラリをグローバルにインストールするのは避けたいものです。
サンドボックスを作ってそのプロジェクトに必要なCライブラリだけを インストールできないものでしょうか。
解決策の一つに Nixを使う というアプローチがあります。
解決方法
Nix パッケージマネージャ
*"純粋関数型パッケージマネージャ"*と呼ばれるNixを使うことで こうした外部ライブラリへの依存周りの問題を解決することができます。 (何をもって"純粋関数型"とするかは謎ですが公式はそう自称しています)
Nix
はOSX, Linuxディストリビューション上で利用できるパッケージマネージャです。
Nix
では新しいパッケージをインストールしても既存のパッケージの 依存関係を上書きしない ため、
各パッケージの依存関係が不整合になって壊れることがありません。
これはパッケージとその依存パッケージが それぞれ分離されてインストールされている ことによる恩恵です。 この 分離 の特徴によってHaskellプロジェクトが依存する外部ライブラリは、 システムグローバルの領域とは 分離 されてそのプロジェクト用にインストールされます。
そして何よりNix
はstack
と相性がよいです。
stack v0.1.10.0
からこのNix
との統合機能が導入されたためです。
Nixの導入
環境情報
OS: Linux debian-jessie 3.16.0-4-amd64 #1 SMP Debian 3.16.7-ckt20-1+deb8u3 (2016-01-17) x86_64 GNU/Linux
Nix: 1.11.2
ghc: 7.10.3
stack: 1.0.2
cabal: 1.22.9.0
導入手順
Nix
とstack
を統合するためには
Nixのトップページにある「Get Nix」の手順でインストールすることができます。
Vagrantの仮想マシンdebian/jessie64
でインストールする例を示します。
Nixのインストール
$ curl https://nixos.org/nix/install | sh
Nixの提供するコマンドへとパスを通す
$ . /home/vagrant/.nix-profile/etc/profile.d/nix.sh
bashrc
やzshrc
など、お使いのシェルに応じて
ログイン時に上記のコマンドを実行するようにしてください。
3. Haskell開発に必要な最低限のパッケージをインストール
$ nix-env -iA nixpkgs.ghc nixpkgs.stack nixpkgs.cabal-install
この時点でGHCをバイナリでインストールできるので、
stack setup
は不要になります。
stackとの統合
ビルド前の準備
例えば外部ライブラリに依存するHaskellプロジェクトであるhdbc-sqlite3
をビルドしたいとしましょう。
今までであれば使い慣れたパッケージマネージャでsqlite3
をインストールするのですが、
ここではシステムグローバルにインストールせずにそれをやる方法を考えます。
git clone https://github.com/hdbc/hdbc-sqlite3.git
cd hdbc-sqlite3
stack.yaml
を生成しましょう。
# 2016/03/12 時点では Nixのパッケージリポジトリに
# lts-5.5がないのでlts-5.4を明示します。
$ stack init --resolver lts-5.4
Using cabal packages:
- HDBC-sqlite3.cabal
Downloaded lts-5.4 build plan.
Caching build plan
Fetched package index.
Populated index cache.
Initialising configuration using resolver: lts-5.4
Writing configuration to file: stack.yaml
All done.
ビルド
とりあえず何も考えずにビルドしようとすると失敗します。
$ stack build
HDBC-sqlite3-2.3.3.1: configure
Configuring HDBC-sqlite3-2.3.3.1...
setup-Simple-Cabal-1.22.5.0-ghc-7.10.3: Missing dependency on a foreign
library:
* Missing C library: sqlite3
This problem can usually be solved by installing the system package that
provides this library (you may need the "-dev" version). If the library is
already installed but in a non-standard location then you can use the flags
--extra-include-dirs= and --extra-lib-dirs= to specify where it is.
-- While building package HDBC-sqlite3-2.3.3.1 using:
/home/vagrant/.stack/setup-exe-cache/x86_64-linux/setup-Simple-Cabal-1.22.5.0-ghc-7.10.3 --builddir=.stack-work/dist/x86_64-linux/Cabal-1.22.5.0 configure --with-ghc=/home/vagrant/.nix-profile/bin/ghc --with-ghc-pkg=/home/vagrant/.nix-profile/bin/ghc-pkg --user --package-db=clear --package-db=global --package-db=/home/vagrant/.stack/snapshots/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/pkgdb --package-db=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/pkgdb --libdir=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/lib --bindir=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/bin --datadir=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/share --libexecdir=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/libexec --sysconfdir=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/etc --docdir=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/doc/HDBC-sqlite3-2.3.3.1 --htmldir=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/doc/HDBC-sqlite3-2.3.3.1 --haddockdir=/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux/lts-5.4/7.10.3/doc/HDBC-sqlite3-2.3.3.1 --dependency=HDBC=HDBC-2.4.0.1-9022dccb33fa7027f85b22fa779bd1cb --dependency=base=base-4.8.2.0-0d6d1084fbc041e1cded9228e80e264d --dependency=bytestring=bytestring-0.10.6.0-c60f4c543b22c7f7293a06ae48820437 --dependency=mtl=mtl-2.2.1-3af90341e75ee52dfc4e3143b4e5d219 --dependency=utf8-string=utf8-string-1.0.1.1-df4bc704a473da34292b0ea0e21e5412 --enable-tests --enable-benchmarks
Process exited with code: ExitFailure 1
sqlite3
という外部ライブラリが見つからないというメッセージが出力されています。
まだNix
との統合が設定されていないためです。
stack と Nix の統合
stack.yaml
に下記のような設定を追記することでstack
は依存性の解決にNix
も使うようになります。
nix:
enable: true
packages: [ sqlite ]
packages: [ sqlite ]
の部分はこのプロジェクトが依存する外部ライブラリの名前を
スペース区切り で列挙します。
注意点
cabalファイルではsqlite3
という名前のライブラリを参照するように宣言していますが、
これをそのままstack.yaml
に記載すると パッケージ名が発見できずエラー となってしまいます。
Nix
のパッケージリポジトリ上はsqlite
と定義されているためです。
stack.yaml
に記述するパッケージ名はNix
パッケージシステム上で有効なsqlite
という名前で指定する必要があります。
$ stack build
〜略〜
Preprocessing library HDBC-sqlite3-2.3.3.1...
[1 of 7] Compiling Database.HDBC.Sqlite3.Types ( Database/HDBC/Sqlite3/Types.hs, .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/Types.o )
[2 of 7] Compiling Database.HDBC.Sqlite3.Utils ( .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/Utils.hs, .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/Utils.o )
[3 of 7] Compiling Database.HDBC.Sqlite3.Statement ( .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/Statement.hs, .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/Statement.o )
[4 of 7] Compiling Database.HDBC.Sqlite3.ConnectionImpl ( Database/HDBC/Sqlite3/ConnectionImpl.hs, .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/ConnectionImpl.o )
[5 of 7] Compiling Database.HDBC.Sqlite3.Connection ( Database/HDBC/Sqlite3/Connection.hs, .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/Connection.o )
[6 of 7] Compiling Database.HDBC.Sqlite3.Consts ( .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/Consts.hs, .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3/Consts.o )
[7 of 7] Compiling Database.HDBC.Sqlite3 ( Database/HDBC/Sqlite3.hs, .stack-work/dist/x86_64-linux-nix/Cabal-1.22.5.0/build/Database/HDBC/Sqlite3.o )
In-place registering HDBC-sqlite3-2.3.3.1...
HDBC-sqlite3-2.3.3.1: copy/register
Installing library in
/home/vagrant/hdbc-sqlite3/.stack-work/install/x86_64-linux-nix/lts-5.4/7.10.3/lib/x86_64-linux-ghc-7.10.3/HDBC-sqlite3-2.3.3.1-J7BRkfYWClZD8ttodrMiVd
Registering HDBC-sqlite3-2.3.3.1...
Completed 8 action(s).
無事コンパイルできました。
この過程でsqlite3
をインストールしながらビルドされますが、
グローバルにはインストールされません。
このプロジェクトのビルド時にスコープを絞ってロードされます。
試しにNix
でシステムグローバルにインストールされたパッケージを一覧化します。
$ nix-env -q
cabal-install-1.22.9.0
ghc-7.10.3
nix-1.11.2
stack-1.0.2
明示的にコマンドでインストールしたもののみ列挙されています。
sqlite
はあくまでもこのプロジェクト用にインストールされているのが解りました。
有効なパッケージ名の検索
Nix
のリポジトリ上でどんなパッケージが有効なのか探すための方法は、
「リポジトリをひたすら検索すること」です。
自分で書いていて「なんかここは微妙だな」と思えてきました……。
公式ページでは.bashrc
などに下記の関数を書いて、
パッケージ検索を少し楽にするといいよと言っていました。
nix? () {
nix-env -qa \* -P | fgrep -i "$1"
}
このコマンドではNix
のパッケージをリストアップして特定の文字列で絞り込んでいます。
早速nix?
コマンドを使ってみましょう。
試しにgcc
で検索すると…… (結構時間かかります)
$ nix? gcc
nixpkgs.avrgcclibc avr-gcc-libc
nixpkgs.distccMasquerade distcc-masq-gcc-4.9.3
nixpkgs.gcc-arm-embedded-4_7 gcc-arm-embedded-4.7-2013q3-20130916
nixpkgs.gcc-arm-embedded-4_8 gcc-arm-embedded-4.8-2014q1-20140314
nixpkgs.gcc-arm-embedded gcc-arm-embedded-4.9-2015q1-20150306
nixpkgs.gcc_debug gcc-debug-wrapper-4.9.3
nixpkgs.gcc44 gcc-wrapper-4.4.7
nixpkgs.gcc45 gcc-wrapper-4.5.4
nixpkgs.gcc46 gcc-wrapper-4.6.4
nixpkgs.gcc48 gcc-wrapper-4.8.5
nixpkgs.gcc49 gcc-wrapper-4.9.3
nixpkgs.gcc gcc-wrapper-4.9.3
nixpkgs.gcc_multi gcc-wrapper-4.9.3
nixpkgs.gcc5 gcc-wrapper-5.3.0
nixpkgs.gccgo48 gccgo-wrapper-4.8.5
nixpkgs.gccgo gccgo49-wrapper-4.9.3
nixpkgs.xorg.gccmakedep gccmakedep-1.0.3
左の列はNix
リポジトリの名前空間上のパッケージ識別子です。
右の列はパッケージの名前です。
こうしてパッケージを名前で検索できます。 でもなんかコレジャナイ……。
パッケージの説明はこんな感じで表示できます。
$ nix-env -qa --description gcc-wrapper-5.3.0
gcc-wrapper-5.3.0 GNU Compiler Collection, version 5.3.0 (wrapper script)
Nix
のコマンドがよく解らないという方は下記のチートシートが参考になるかもしれません。
まとめ
stack
を使って外部ライブラリに依存するプロジェクトをビルドする場合は、
Nix
と統合することでシステム全体にインストールされたパッケージを破壊するリスクをなくすことができます。
stack
とNix
の統合はとても簡単ですが、
Nix
上での適切なパッケージ名を知らないと正しく依存関係を解決できません。
参考記事